10月下旬・都内某所で行われた『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』のクリエイター陣による超豪華な座談会の模様を3週にわたってお届け! 開発秘話がたっぷり詰まった盛りだくさんの内容です。
『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』座談会
目 次
第1回 初期設定・楽曲・コミック編
■今だから言える! サーシャはこうして生まれた■思わず聞き惚れる! 『4』の楽曲たち
■プレイ前に必読!? 『Limited Edition』のオリジナルコミック
第2回 声優編(2013年12月19日(木)公開予定)
第3回 ゲームシステム編(2013年12月26日(木)公開予定)
PROFILE
![]() ゲームデザイン
宮岡寛(文中:宮岡)
有限会社クレアテック代表取締役。『メタルマックス』シリーズの生みの親。『ドラゴンクエスト』のロト三部作ではシナリオ・アシスタントを務め、その後独立して数々のゲームを制作。ゲームファンのあいだでは“ミヤ王”という名で知られている。
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![]() ディレクター
田内智樹(文中:田内)
『メタルマックス』シリーズのキーマン的存在。データイーストに勤めていた時代から宮岡氏とともに『メタルマックス』シリーズの開発に参加。『ヘラクレスの栄光Ⅲ』『ヘラクレスの栄光Ⅳ』を始め、さまざまなゲームの企画開発に携わってきた。
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![]() オリジナルキャラクターデザイン
山本貴嗣(文中:山本貴嗣)
『エルフ17』、『セイバーキャッツ』、『不夜城(原作:馳星周)』などで有名な漫画家。格闘や兵器の描写には定評がある。『メタルマックス』シリーズでは、第1作目からキャラクターやモンスターデザインなどを手がけて来た。宮岡氏とは小学生からの同級生。 |
![]() サウンドプロデューサー
門倉聡(文中:門倉)
作曲家。さまざまなアーティストの音楽活動に参加するだけでなく、映画やアニメ、TVドラマなどの音楽でも活躍。国内有数のキーボーディストでもある。『メタルマックス』シリーズでは、第1作目からすべての音楽を担当している。 |
![]() プランニングディレクター
友野祐介(文中:友野)
株式会社24Frame代表取締役。『メタルマックス』シリーズには『3』から参加。『4』ではゲームデザイン・シナリオ・プランニングディレクションを担当。ファミコンやスーパーファミコンの『メタルマックス』シリーズには、いちユーザーとして熱狂していたと言う。 |
![]() 開発プロデューサー
山本良博(文中:CC山本)
株式会社キャトルコールの社員。かつて田内氏と同じくデータイーストに勤務し、ともにいくつもの作品の開発に携わって来た経歴を持つ。『メタルマックス3』から、キャトルコールの社員として参加し、開発の現場を指揮している。
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![]() 音響監督
大沼隆一(文中:大沼)
プロデューサーあるいはディレクターとして、声優関係の音響製作を数多く手がけている。初参加の『4』では、声優のキャスティングも担当。『メタルマックス』シリーズの大ファンだが、座談会の出席者の中でただひとり、テストROMで『4』をプレイしていなかった。 |
![]() プロデューサー
久保武史(文中:久保)
株式会社KADOKAWA エンターブレイン ブランドカンパニーで『メタルマックス』に携わり、数多くの開発現場で修羅場をくぐって来たスゴ腕プロデューサー。独身時代はひとりでふらりとツーリングするほどのバイク好き。『4』でもバイクへのこだわりは尋常でない。 |
第1回 初期設定・楽曲・コミック編
今だから言える! サーシャはこうして生まれた

久保 『メタルマックス 4 月光のディーヴァ』(以下、『4』)の完成、おめでとうございますー!
一同 おめでとうございますー!
久保 週刊ファミ通では、『メタルマックス』シリーズ初のプラチナ殿堂(9.9.9.8点 計35点)です!
門倉 おお! プラチナ殿堂!
宮岡 うれしいですね!
久保 さっそくですが宮岡さん、じつはずっと知りたかったことがありまして。初期の物語の構成は、どういった発想で考えられたのですか?
宮岡 まず、企画会議で「おねーさんがバイクになる」というのが決まりまして(笑)。
久保 当時、自分もその会議に参加していて、密かに「おねーさんがバイク? マジかよ」と思っていました。
宮岡 で、その無茶な設定を活かす物語を作らなきゃいけない。『4』の舞台となる時代にはサーシャのようなアンドロイドを作る高度なテクノロジーはないので、“彼女は<大破壊>の頃の時代からやって来る”しかなかろうと。もし、あの無茶な設定がなかったら、ホットシードたちの物語は生まれていなかったかもしれません。
門倉 なるほど。
宮岡 どうやってユーザーを「ええー!?」と驚かせるのか? そこが大事ですから。
田内 “サプライズ”と言うヤツですね。
山本貴嗣 私が宮岡クンから「おねーさんバイク」の設定をもらった時、「これ、バイクになるパーツやエンジン、タイヤとか……おねーさんが背中にしょって歩いているのかな?」って思ったら、「いやぁそれは考えなくてよくて、ファンタジーでいいから」と。映画『ターミネーター2』の液状になるアンドロイド“T-1000”みたいなものかなって考えたら……。それから気軽にデザインできましたね。そうでないと、おねーさんが行軍している兵士のように、ものすごい荷物を背中にしょって歩いている、という絵になってしまう(笑)。
田内 でも、サーシャは山本貴嗣先生でないとデザインできなかったでしょうね。
宮岡 じつはオレ個人としては、最初に描いてくれたあまり変形していないサーシャに、主人公が乗ろうとしている絵が……あれがすごく好き。ただ、あまりにも人間っぽすぎたんです。それで結局は採用しなかったんだけど、あの絵はすばらしかった。
田内 あの絵、ウチの嫁さんにチラッと見せたら、「かっこいいバイクだね」って。まず、バイクと認識したんですよ。
久保 それはうれしい反応ですね。
友野 女性だから、イヤらしい方向に想像しなかったのかも(笑)。
久保 男だとやっぱり、つい、いろいろと……ね。
宮岡 まぁ、そうかもね。RCサクセションの名曲『雨あがりの夜空に』をゲームにしました、みたいな?
山本貴嗣 うまいことを言うね。
田内 サーシャの背中に乗るとなると、それはそれで逆に(笑)。
山本貴嗣 女性型のバイクは昔、マンガなどで見たことがありますが、どれもうつぶせで。私や田内さんは、「いや、どうせやるならのけぞりだろうと」(笑)。
田内 でも、サーシャバイクで事故っても、じつはおっぱいがクッションになるじゃん。「違うんだよサーシャ、事故なんだよ」と。でも、ヒナタの手がサーシャの胸に伸びている(笑)。
久保 「サーシャ、そんなつもりはないんだよ」って(笑)。
宮岡 ……それだけで、1本ゲームができそうだな。
田内 『ヒナタの憂鬱』というタイトルでどう?
宮岡 企画、出すか! ジャンルは、“おねーさんバイクに乗るシミュレーター”で。
久保 膨大なテキストを宮岡さんが書いてもらえるなら。
田内 『サーシャとヒナタのただの日常』とかでも、おもしろそう。
山本貴嗣 ふたりでロングツーリングへ行くんです。ふたり並んで、夕日を見ていたり。浜辺をふたりで走っていって、なぜかサーシャだけバイクになるとか(笑)。
宮岡 ヒナタがサーシャに怒られているところとかね。
田内 寝ているサーシャにモンモンとするヒナタとか(笑)。
久保 サーシャ、薄着ですからね。
宮岡 ……そうねぇ。アンドロイドだから、寒くないし。
久保 そういえば、サーシャのイラストが決まるまで、時間がかかりましたよね。山本貴嗣先生には何案も描いていただきました。
宮岡 『4』のキモとなるキャラクターだったので、山本貴嗣先生には申し訳なかったけど何回も。「おねーさんがバイクになる」ということをお客さんに印象づけたかったので。
門倉 ユーザーの反応、スゴかったですよね。
田内 ある意味、ユーザーに嫌われることをわかっていてやった部分もありました。でも、そこで冒険せずに普通に考えてくと、単なるバイクで終わっちゃうから。
久保 それではおもしろくないですよね。でも、サーシャって3Dモデルもかっこいいじゃないですか。
宮岡 当初のイメージからすると、もう少しメカっぽくてもいいかなっという感じだった。でも、さっきも言ったことだけど、山本貴嗣先生の第一案のサーシャがすごすぎて。
山本貴嗣 どんな絵でしたっけ。あの2色カラーのやつかな?
宮岡 やや俯瞰の視点で。
田内 通常版のパッケージイラストに近い形のデザインのもの。肌だけ色を塗ってもらって、車輪がクルクルと回っているヤツ。
山本貴嗣 ああ! あの絵は自分でもけっこう気に入っていたんです。なぜこの絵がボツなんだ……と。ガッカリでした。

『4』の開発当初、宮岡氏の依頼で山本貴嗣氏が描いた、第一案のサーシャとヒナタのイラスト。
宮岡 じつは、アニメ監督との最初の打ち合わせでね……。あの絵を見せた瞬間に、それまであまりやる気がなさそうな感じだった監督さんが「ん?」と、目を見張って。そのあと、目がキラーンと光って。
山本貴嗣 あの絵は、アニメ監督さんのテンションを上げるのに役立ったんだな(笑)。
門倉 アニメ監督さんは、ふつうのゲームか何かだと思っていたら……あの絵を見て衝撃が走ったんでしょうね。「こりゃいったい、何のゲームだよ」と(笑)。
大沼 そういえば、サーシャ役の佐藤奏美さんが言っていましたよ。「私、イベントでサーシャの格好をしないといけないんでしょうか?」って。
宮岡 おおー! あの格好、してくださるんですか?
大沼 ヒナタ役の下野紘さんが「オレ、乗ってもいいけど」と(笑)。
田内 そういえば、ネットでとある有名なコスプレーヤーがサーシャの格好をした写真がTwitterに上がっていましてね。ファンの男性がリツイートして「それには乗れるのでしょうか?」って(笑)。
久保 女性がサーシャの格好をやってみたいって、すごいね。
山本貴嗣 ある人が「サーシャバイクのコスプレがしたい」とおっしゃるんで、昔のバラエティー番組でよくあった肩から馬を下げているタイプでおやりになっては? と提案したら、「ヒナタのほうじゃなくて、サーシャバイクの方をやりたいのです」と(笑)。
友野 ヒナタをやるなら、ハリボテでサーシャバイクを作ればいいですけどね。
田内 ユーザーへのアンケートで「サーシャをソルジャーとして使ったか、バイクとして使ったか?」と聞いてみたいな(笑)。
門倉 僕は、サーシャはほとんどバイクでした。サーシャバイクは強いですよ~。序盤はずーっとサーシャバイクを使用していました。
友野 サーシャはソルジャーとしてもかなり強いので、バトルメンバーから外すかどうか、悩ましいところですよね。
田内 じつは、サーシャバイクには隠し仕様があるんです。バイクに乗って戦闘をすると、たまにキャラクターがダメージを受けるじゃないですか。ただ、サーシャってヒナタを守るために作られたアンドロイドなので、サーシャバイクにヒナタが乗っていると、ダメージを受けないんですよ。
大沼 マジで!?
田内 よく考えると「あれー?」って思う程度だけど(笑)。ほか、サーシャが人型の状態でヒナタがひん死になると、敵の攻撃からかばってくれるんです。
門倉 へぇ~、そうなんだ!
宮岡 でも、ヒナタが戦闘でひん死になることはあまりないじゃない。ヒナタがクルマから放り出されないといけないし。
田内 ゲーム序盤なら、そういうシーンを見られるかもしれないですよ(笑)。
山本貴嗣 そうそう、ゲームの序盤と言えば、ズキーヤの仲間が戦車ですれ違う演出。あれはいいですよね。
田内 「あの戦車に乗りたいー」と思うよね。

ゲームの序盤、サンデリゼからオールドソングへ向かう途中にある洞窟で、
月光のメンバーとすれ違うシーン。
山本貴嗣 ぼくはまだテストROMの『4』をクリアーしていませんが、あの戦車って乗れますか?
宮岡 同型の戦車なら、おいおい手に入りますよ。でもあの演出、何気なく「いいな」って思っていました。
門倉 今回、ヒナタたち以外のハンターがいっぱい登場しますからね。
宮岡 ここだけの話、本当はヒナタたちとズキーヤが所属する月光のメンバーが戦闘する予定だったんです。ズキーヤが“百人力のリキ”や“後ろのガストン”とかとパーティを組んで、ヒナタたちと一度戦わせようとか考えていて。そのほか、ズキーヤが裏切るという設定や、スパイとしてヒナタたちのパーティに入ったりとかね。ズキーヤはもともと月光と言うか、鬼婆が裏で汚い仕事も引き受けていることに納得できてないので。そんな中でズキーヤは、すっごく葛藤して悩む……みたいな。残念ながら今回はそこまで描ききれそうになかったので、割愛しましたが。
友野 ズキーヤについては、もっと掘り下げてみたかったですね。
宮岡 でも思いのほか、ズキーヤは難しい役回りになっちゃったんだよ。
友野 もしそうなっていたら、フラグ管理がさらに大変になっていたでしょうね。
田内 でも、序盤でまさかの展開もありましたよね。ゲーム序盤にヒナタがWANTEDモンスターと同行するって。
宮岡 マルデ・ファミリーのスエゴの演技はよかった。「あ痛てててっ!」というセリフ、最高ですよ(笑)。

ヒナタたちとマルデ・ファミリーのひとり、スエゴとの出会い。
スエゴはモンスターに追われてここに来た。
思わず聞き惚れる! 『4』の楽曲たち
久保 メインキャラクターの中でも、サーシャとズキーヤは何かと時間がかかりましたね。
田内 偶然かもしれないけど、どちらの声優さんもオーディションの最後の人が受かっているんですよ。
宮岡 自分の予想とは違っていました(笑)。「誰を選ぶか?」で、ものすごく長い会議をしたよね。
田内 そうそう、オープニングテーマ曲を歌っている澁谷梓希さんを含めた i☆Ris(アイリス)も、いちばん最後の歌い手でした。
大沼 じつはあの曲、『4』の主題歌と公式発表する前に、i☆Ris(アイリス)が秋葉原で歌のタイトルのみを言ってライブを行っていたんです。けっこう好評でしたよ。
門倉 i☆Ris(アイリス)も「こういう話を頂いたことが、本当にすばらしいことで」と言っていました。よかったと思います。

大沼 そうそう、ズキーヤの『明日のうた』がすごくいいって聞きましたよ。
門倉 先日、ズキーヤ役の白石真梨さんのボイストレーニングをしたのですが、彼女、体がガチガチに堅くなっちゃって、いつも緊張状態みたいな感じなんです。当初、こちらがそれに気がつかないままレッスンをしていたので……そこは少し後悔しています。
大沼 でも、白石さんが門倉さんと出会えて“本当に良かった”とオレは思いましたよ。門倉さんのレッスンを受けてから、とてもうまくなった。彼女、すごく吸収力がありますし。
門倉 数回レッスンしただけですけど、だいぶ変わりましたね。
久保 ラジオ番組『METAL MAX RADIO』に白石さんが出演しているけど、アドリブもどんどんうまくなっていますからね。
大沼 白石さんは、本当にポテンシャルが高い方なので。門倉さんがイチオシしてくれたのがよかった。当時、門倉さんが「技術はまだあまりないけど、素直に聞いてくれていい人なんだ」と言っていたんですよ。
久保 そういえば、ぼくも門倉さんからだいぶお叱りを受けました(笑)。
田内 とくに開発の後半は立て込みましたもんね、音付けとか。
宮岡 ムービーの仕上がりもかなり遅れていたし。
友野 かなり心配していましたよ、現場は。「間に合うのか?」って。
門倉 『4』って、こんなに大変だと思わなかった。ボリューム的にね。いろいろなジャンルのサウンドをやりましたよ。
宮岡 すいません、無茶を言って……。門倉さんに弾いてもらったんです、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番『月光』の第3楽章を。
大沼 ズキーヤ、ピアノうますぎ! 天才すぎ(笑)。

このイベントシーンで流れるベートーヴェンの
ピアノソナタ第14番『月光』の第3楽章は、門倉氏が弾いたもの。
宮岡 じつは、ズキーヤの祖母にあたる鬼婆はすごくピアノがうまい。あるイベントで鬼婆がピアノを弾いているシーンもありますし。
久保 まぁ、裏設定でいろいろと。
大沼 そうなの?
久保 あと、“クロモグラ”の曲は印象に残りました。
友野 クロモグラの曲は宮岡さんと「どう使います?」と、よく議論しましたね。
門倉 そういえば、『メタルマックス』のライブのときに来ていたドラムの人が、ファミコン時代から『メタルマックス』シリーズをすごくやり込んでいて。『メタルマックス3』(以下、『3』)も7~8回クリアーしているって聞きましたよ。最後はパーティをひとりにしてプレイしたそうな。
田内 それは作り手的にうれしい話ですね(笑)。
門倉 このあいだ、ドラムの彼に『4』をプレイできる機会があったからやってもらったんです。最初は「楽しみにしているから、プレイするのは絶対にイヤだ」と言っていましたが、かれこれ2時間ぐらい遊んでいましたよ(笑)。
宮岡 本当におもしろいRPGって、クリアーした後もくり返し遊ぶじゃないですか。ずっとその場にいて、やり続けたくなる。そういうRPGが個人的に理想。
大沼 ボクもいまだにプレイしている『メタルマックス2:リローデッド』(以下、『2:R』)でエンディングを何度も迎えているけど、また依頼とか出てきて……もうハマりまくりだからね。
門倉 『メタルマックス』に関われて、本当に光栄でした。
久保 ここにいるメンバーで唯一『4』をプレイしていないのは、大沼さんだけですよね?
大沼 もう、勘弁してよー。いままで話がかみ合わないんだもの! こんなに『メタルマックス』が好きなのに!
CC山本 『4』もメチャクチャおもしろいですよ。
大沼 クソー!!!!!!
友野 でも、『2:R』はいまだにやっているんですよね?
大沼 やってるよ! ずっとやってる。いまだにやってるんだよ!
久保 じゃあ、『4』はいらない?
プレイ前に必読!? 『Limited Edition』のオリジナルコミック
大沼 いいなぁー、オレも早く『4』をやりたいよ!!
山本貴嗣 (『Limited Edition』の中身を見て)このコミックを読んでから、『4』をプレイし始めるといいですよ。
門倉 あ、山本貴嗣先生もコミックの作業が大変だったらしいじゃないですか。
山本貴嗣 大変でしたよ~。
久保 『4』に挿入されるアニメ用など、いろいろと描き下ろしていただきましたから。
宮岡 あれはけっこう、キツかったでしょう(笑)。
山本貴嗣 ストレスが溜まって、どうしようもないこともありましたね。申し訳ないです。
久保 でもコミックも、いい作品になりましたよね。

『Limited Edition』に同梱されているオリジナルコミック
『笑うカドルス+設定資料集』を見て談笑する山本貴嗣氏と久保氏。
山本貴嗣 あのコミックは約1ヵ月間で描きました。アシスタントなしで、しかも『Limited Edition』のパッケージイラストも同時進行ですよ。
大沼 とんでもないスケジュールですね。
久保 『Limited Edition』に同梱されているコミック『笑うカドルス』ですが、どんな風に進んでいったのですか?
山本貴嗣 過去作のコミックと同様に、宮岡クンと相談しながらやりましたね。
宮岡 ゲームを作り始めた当時は、“ホットシードの仲間のひとりが、ヒナタたちのために死んだ”ということだけ決まっていた。ただ、どういう風に死んだかまでは考えていなかった。
山本貴嗣 「読み切りコミックを」と宮岡クンに依頼されたとき、最初はホットシードのメンバーが冷凍睡眠から復活して……といった群像劇にしようと考えたのです。しかし、群像劇にすると物語の焦点がボケてしまい、話がうまくまとまらなかった。そこで、いつものようにヒロインに的を絞り、語ってもらったほうがいいかなぁと思ったら……それからパッと物語が転がりましたね。
宮岡 山本貴嗣先生がすごいのは、物語が絵コンテになったときですね。電話で「こういうの、どう?」と伝えたら、「こんなものができるのか!!」と驚かされる(笑)。
久保 絵コンテもすごかったですね。上がってくるたびに「この物語、どうなるのだろう?」と先が気になりましたから。とくに、コミックで描かれているクロモグラが潜っているシーンは、ゲームにはないですからね。
CC山本 そういえば、クロモグラの内装の設定などの相談が、山本貴嗣先生からありました。
門倉 コミックを読むと、「クロモグラってこんなにすごい!」と思うよ(笑)。
宮岡 最初は、クロモグラやベルイマンに焦点を絞った物語にしようという案もあった。しょぼい新兵だったベルイマンが、なぜあんな風になったか? というストーリーでね。それも山本貴嗣先生とふたりで相談しつつ、あれこれ考えてみたんだけど、「ページ数が足らないね」と(笑)。
山本貴嗣 映画『フルメタルジャケット』の“微笑デブ”みたいなベルイマンがブチ切れて……。
宮岡 悪の帝王になる(笑)。その過程を短編コミックで伝えるのは難しいですよ。
CC山本 でも、このコミックを読むと、ベルイマンがどうして豹変したのかが、すごくわかる気がするんです。すごいですよね。
田内 じつは『4』の制作初期のころ、クロモグラはラストダンジョンの予定だった。クロモグラを壊して中へ入り、ベルイマンと最終決戦をするという設定だったなぁ。
久保 そうだったんですか!?

オリジナルコミックの「設定資料集」にある、モンスターに関するページを見る山本貴嗣氏。
山本貴嗣 (『笑うカドルス』の後にある設定資料集を見ていて)そういえば、WANTEDモンスターのウルリッヒは、地表に着地してからヒナタたちを蹴ったりするんですよね?
宮岡 蹴ります(笑)。モーションも音もけっこうおもしろくできています。グッジョブです。
久保 ウルリッヒは、ほぼ山本貴嗣先生の設定通りになっています。
山本貴嗣 それはうれしい! 設定や攻撃方法などを考えた自分としては(笑)。
久保 せっかく飛んでいるウルリッヒを撃墜したのに、「ええーっ」って感じで猛攻してきますよ。
山本貴嗣 「撃ち落としたー」と思ったら、それで終わりでないと(笑)。
田内 着地してからのほうが強烈ですから。
宮岡 あと、翼でヒナタたちを叩くし(笑)。
田内 バカボコバカボコと、気持ちいいくらいに。

地上に降りてからのウルリッヒの猛攻。脚をストンプさせてヒナタを攻撃する。
大沼 それにしても、銃の描写と言うか……山本貴嗣先生のイラストって、すごく好きなんですよ。緻密だし、かっこいい。『2:R』のマリアなんて、震えたもの!
久保 大沼さんは銃マニアで、打ち上げでモデルガンを持ってくるぐらいなんです(笑)。
大沼 『3』で出てきた垂直二連のダブルバレルの銃が欲しかったんだけど、なかなか売っていなくって。しょうがないから、映画『マッドマックス』の横二連のダブルバレルの似たようなモデルガンを……。縦二連のダブルバレルのモデルガンって、売っていないですよね?
山本貴嗣 売ってないですね。モデルガンでは売ってないですよ。ちなみに、通常版のヒナタのアサルトライフル、タボールってわかります?
大沼 ええーと……はいはい、知っています!
山本貴嗣 イスラエルにある会社が生産しているアサルトライフルです。発泡スチロールでドラムマガジンを再現して、デッサンしていました。
大沼 そうそう、ズキーヤの22口径のデリンジャーも手に入らなくって。しょうがないからノーマルの32口径のデリンジャーをモデルに持ってもらって写真を撮ったけど……。
山本貴嗣 言っていただければ、デリンジャー、お貸ししたのに(笑)。たしかどこかにあったと思う。
大沼 今度のイベントで、声優さんたちに銃を持たせたいので、ぜひ貸してください!
山本貴嗣 探してみます(笑)。そういえば……こんなものがあるんですよ。(山本貴嗣先生がカバンから何かを取り出す)
大沼 ああ、惑星カミカゼだ!!
山本貴嗣 ここから、デッサンを描き始めたんですよ。発泡スチロールで模型を作ってね。すべては、ここから始まったんだなぁ。

WANTEDモンスター“惑星カミカゼ”の模型。
表情や惑星の環なども細かく描かれていた。
田内 そうそう、山本貴嗣先生のデザイン発のアイテムって、じつは多いんです。
山本貴嗣 と言いますと?
田内 ズキーヤの“トライピアス”。あれは山本貴嗣先生が描いたピアスをアイテムにしたものなのです。
山本貴嗣 ああ、そうなの? (笑)。
田内 サーシャが持っているライフルも、ですね。各キャラクターの初期装備は、山本貴嗣先生のデザインからきています。ヒナタが最初に身に付けているボロテクターとか(笑)。
久保 いまだから言えるのですが、初期案のヒナタは赤いTシャツを着ていたんです。その下にプロテクターをつけている格好でした。Tシャツとプロテクターのデータが分かれているから、Tシャツを取ったイラストを宮岡さんに見せてしまったら……「これでいこう」と。
山本貴嗣 そんなことが(笑)。

『4』の開発初期に描かれたヒナタのイラストのひとつ。赤いTシャツと靴がないものが採用された。
久保 設定資料集には、初期デザインのキャラクターも紹介されていますよ。ズキーヤは髪型が違うし、カリンはお団子ヘアのバージョンがありました。
友野 逆に、ウキョウなどはかなり和風な感じですね。陣羽織とわらじだし。
久保 設定資料集のクルマのページで、装甲車に乗っているキャラクターがいるでしょ? 初期に山本貴嗣先生からいただいたキャラクターのひとりで、“仮面の麗人”だったのです。けっきょく、このキャラクターはボツになりましたけど。
山本貴嗣 ……ああ、いる! 懐かしい(笑)。
久保 “仮面の麗人”はもったいなかったかもなぁ。

『設定資料集』のクルマ編で掲載されている装甲車。
上に乗っている人物が“仮面の麗人”だった。
山本貴嗣 (『笑うカドルス』最後のページにある奥付のあとがきを見て)門倉先生宛てのファックスですね。1992年当時、まだ門倉先生とお会いしてなかったときのもので。メールとかがなくて、ファックスで連絡をしていたんだよなぁ……。時代を感じますね。

オリジナルコミックのあとがきで紹介されているファックスの内容やその絵柄から、当時の“想い”を感じられる。
